統合失調症の治療のため精神科病院に任意入院者として入院した患者が、単独での院内外出(病棟から上記病院の敷地内への外出)を許可され、敷地外への単独での外出を許可されていなかったにもかかわらず、無断離院をして自殺した場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下においては、上記病院の医師が、上記患者に対し、上記病院においては、平日の日中は敷地の出入口である門扉が開放され、通行者を監視する者がおらず、任意入院者に徘徊センサーを装着するなどの対策も講じていないため、単独での院内外出を許可されている任意入院者は無断離院をして自殺する危険性があることを説明しなかったことをもって、上記病院の設置者に説明義務違反があったということはできない。
⑴ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律37条1項の委任に基づき厚生労働大臣が精神科病院に入院中の者の処遇について定めた基準において、任意入院者は、原則として、開放的な環境での処遇(本人の求めに応じ、夜間を除いて病院の出入りが自由に可能な処遇)を受けるものとされており、当時の医療水準では無断離院の防止策として徘徊センサーの装着等の措置を講ずる必要があるとされていたわけでもなかった。
⑵ 上記病院においては、任意入院者につき、医師がその病状を把握した上で、単独での院内外出を許可するかどうかを判断していた。
⑶ 上記患者が、具体的にどのような無断離院の防止策が講じられているかによって入院する病院を選択する意向を有し、そのような意向を上記病院の医師に伝えていたといった事情はうかがわれない。
|